井浦 新さんがつくる「忘れられない旅の香り」
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表現者としてさまざまな分野で活躍される井浦 新さん。香りについても造詣が深く、「旅をして香りをつくるのが僕の定番」なのだそう。今回はAEAJグリーンテラスのアロマラボラトリーの精油約250種のなかから香りをチョイス。北海道上川郡の下川町と沖縄県の西表島、ふたつの土地の情景を、調香で再現しました。
井浦さんにとって、旅と香りとは?

ご自宅ではレモンマートルや月桃などたくさんの芳香植物を育て、蒸留器も持っているという井浦さん。「お香や香水、香りの楽しみ方はいろいろありますが、精油にはその植物と初めて出会ったときのような、香りから得られる感動があります。鼻にこびりつくこともなく、香りが気持ちよく脳に記録されていくところがいいですね」。自然環境保全や環境循環を大切にする井浦さんの香りづくりは、精油を旅先で出会った植物や土、風、ひとびとなどに見たて、パズルのようにはめこんで記憶を再現していきます。「独学なので、これが正しいとは言えないかもしれません。でも、完成した香りによって旅先の風景がよみがえったら、それは僕の中では成功です」
北海道 下川町と沖縄 西表島への旅を香りで再現すると?

北海道上川郡下川町は、町の9割が森林。開拓者が木を植えて育て、木材を資源に。それを繰り返し、長い時間をかけて育んできた森です。「旅した季節は冬。トドマツの森と白い雲。青い空に風が吹き抜けていく。ベースがあまり感じられないくらいにしたいんです。トドマツには、どこかベルガモットのような香りもある気がして、それも表現できたら」。ウッディ系にかたよりすぎないように、下川で出会った人の笑顔や温かさをロウバイの甘さでプラス。

井浦さんが西表島を訪れたのは、たくさんの花が咲き乱れる春。「クロツグヤシやサガリバナといった、鹿児島や屋久島でもあまり見ないものや固有種植物がたくさんあって。そこに土や海の香りが混ざってくるように感じました」。キンモクセイ、ガーデニア(クチナシ)、ミモザを南国の濃厚で甘い花々の香りに見立て、シナモンやブラックペッパーでマングローブの木や枯れた葉、海水、腐葉土などを表現できたらと、次々にイメージがふくらみます。
井浦さんオリジナルの旅の香りはこうして誕生

目の前には約250種類の精油が並びます。「いいなと思う香りはたくさんあって、全部見てしまうと迷ってしまうので、あえて見ないようにしました。最初に世界観を決めて、ひとつの景色がつくれそうなイメージが浮かんだ精油だけをピックアップしていった感じです」と井浦さん。

トップ、ミドル、ベースに大まかに分けて9種類の精油を選んだら、無水エタノールを入れたビーカーにトップノートから順番に入れ、その場で香りをつくっていきます。「特に意味はないのですが、なぜか9種類でつくることが多いです。精油の数が多いと難しくなるので、つい挑戦したくなって(笑)」

滴数は、順次入れながら微調整を重ねて。ある程度構成が見えてきたら総数を計算し、さらに調整していきます。西表島をイメージしたブレンドでは「最後にあと1滴、なにを足すと効果的かな……」と悩み、最終的にミモザを足しました。

最後に香りを確認し、「おもしろいものができました」と、印象的な表現とともにボトルへ移し入れます。スプレーすると、井浦さんの旅の記憶を再現するかのように、ふたつの土地の香りが一気に広がりました。
出来上がった香りのタイトルは「トドマツの風」と「イリウムトゥの夕べ」

左)清らかで甘さもある「トドマツの風」、右)西表島の海辺で見た夕日のような色合いの「イリウムトゥの夕べ」
〈「トドマツの風」アロマレシピ〉
- トドマツ…20
- クロモジ…10
- フランキンセンス…10
- ハッカ…9
- ヨモギ…8
- サンショウ…5
- レモンマートル…5
- ロウバイ(アブソリュート)…5
- ハマナス(アブソリュート)…3
〈「イリウムトゥの夕べ」アロマレシピ〉
- キンモクセイ(アブソリュート)…10
- ミモザ(アブソリュート)…8
- イランイラン…7
- ペパーミント…7
- カルダモン…5
- ガーデニア(アブソリュート)…5
- シナモンバーク…5
- ブラックペッパー…5
- ティートリー…3
旅先の風景がよみがえるブレンドが完成。「これからも、旅の香りを楽しんでいきたい」

香りをつくるときには、常に風景を思い描いている井浦さん。今回のブレンドはどちらもしっかりと景色や思い出が浮かび、大成功でした。「トドマツの風はかなり繊細。イリオモトゥの夕べはすべてを飲み込んで一気に南国を感じられる。スパイシーさもあってそこがまたいいですね」。そんな井浦さんに、これからつくってみたい香りをお聞きすると……。「やはりこれからも、旅の香りづくりを続けていきたいです。見てきた植物だけではなく、そこでどんな人と出会い、どんな時間を過ごしたのかで、香りの景色も変わってきます。もっと修行を重ねて、いつか“香りの聖地”と呼ばれるグラースの香りがつくれたらいいなと思っています」
※この記事は取材当時の情報です 。

この記事で紹介した香りを試してみませんか?
AEAJグリーンテラスにて、井浦 新さんが調香した2種類の香りを再現して展示いたします。
展示期間:2025/4/1(火)~6/30(月)予定
下記特設サイトよりご予約のうえ、ぜひお越しください。
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