名作映画から導くアロマレシピ|香りを感じる映画6選

映画には、香りをつくるヒントがたくさん詰まっています。スクリーンから香りが立ちのぼってくるような場面や、香りが物語のキーとなる瞬間──。「香り」を想起させる映画作品とそこからイメージする香りについて、映画ライター・あつた美希さんに解説していただきました。さらに、それぞれの映画から着想を得て、調香師・安藤明日生さんが調香した香りのレシピもあわせて紹介します。

監修/映画解説
あつた美希
監修/映画解説
あつた美希

あつた・みき/フリーランスライター。映画評、人物インタビューなどを『25ans』『リシェス』『プレジデントウーマン』ほか多数の女性誌で執筆。これまでに取材した人数は600人以上。アロマテラピーにも造詣があり、香りをテーマに映画を紹介するコラムもアロマの専門誌にて担当。

レシピ作製
安藤明日生
レシピ作製
安藤明日生

あんどう・あすみ/アロマブランド「Lunef(リュネ)」主宰。鎌倉を拠点に、植物の力を活かした調香を行う。各種展示会やライブの空間演出、企業・店舗の調香や企画など幅広く活動。スキンケアブランド「OSAJI」の調香体験スペース「kako -a scent-」も担当。

映画と香りの関係とは?

映画を観ていると、実際には漂っていないはずの香りをふと感じることはありませんか?花や香水、料理やお茶、湯気などの描写が、視覚や音を通じて嗅覚を呼び起こし、懐かしい記憶や感情と結びついているように感じる瞬間があります。香りは、五感の中でも特に記憶と深く結びついた感覚であり、映画もまた、心の記憶をたどる小さな旅のようなもの。見えないはずの香りの輪郭がスクリーンの中にふっと浮かび上がる瞬間に、映画の世界観がより深まり新たな魅力が宿ります。そこには香りづくりのアイデアと気づきが満ちているといえるでしょう。

映画の中には、先に挙げたような直接的な香りの描写だけでなく、ストーリーや背景から香りが想起される作品もあります。香りづくりのイマジネーションが広がりそうなおすすめの作品を、あつたさんに紹介していただきました。

①『ファミリー・ツリー』(2011年/アメリカ)

ハワイを舞台に、家族の絆と再生を描いた家族のドラマ。物語の全編にわたり、南国ならではの開放的な空気感や風景、生き生きとした植物が描かれています。ハワイを象徴するプルメリアの香りが、スクリーン越しに立ち上ってくるような作品です。

②『駆込み⼥と駆出し男』(2015年/日本)

江戸時代の鎌倉・東慶寺を舞台に淡く惹かれ合う二人──見習いの医者と怪我を負った鉄練り女が山で薬草を採取するシーンが印象的に描かれます。湿度を含んだ緑の色合いや、静かに吹く風の音、足元の土を踏みしめる感触など、画面から薬草や土の香りが漂ってくるようです。

③『美女と野獣』(2014年/フランス・ドイツ合作)

幻想的で神秘的な雰囲気が漂うこちらの実写版では、古城に美しく咲くバラが高貴なイメージで描かれています。バラは愛や美の象徴ともされ、ヒロイン・ベルの知性や優しさにも通じているよう。物語のキーとなるバラの存在がとても印象的で、香りづくりの着想を得られそうです。

香りを感じる、3つの名作映画とアロマレシピ

『ニュー・シネマ・パラダイス』(1988年/イタリア・フランス合作)

『ニュー・シネマ・パラダイス』Blu-ray発売・販売元:TCエンタテインメント (C)1989 Cristaldi Film

イタリアの小さな村を舞台に描かれる、少年の成長と喪失・再生の物語

イタリアの小さな村で育った少年トトが、映画館の映写技師アルフレードとの友情を通して映画への情熱を育み、やがて故郷を離れて映画監督として成功し、30年後に帰郷するまでを描いた物語。作中にさりげなく登場するレモンは、家族の食卓や記憶と深く結びついています。レモンの爽やかな香りは、少年時代の純粋さや夢を象徴し、その苦みは喪失や人生の痛みを思わせます。冒頭の皿の上のレモンから、再会の食卓にあるレモンまで──。レモンは、時間の流れと家族の絆を静かに語る存在として描かれています。

『ニュー・シネマ・パラダイス』をイメージしたアロマレシピ

レモンの画像

爽やかなかんきつをメインに、懐かしさと郷愁に満ちた空気感を表現。シチリアの青い空と太陽の光を思わせる、レモン、スイートオレンジ、ローズマリーをトップに。そこに、あたたかな記憶や愛の余韻を重ねるように、ローズをそっと忍ばせています。古い映画館のフィルムや埃っぽさ、観客の熱気が混ざり合った独特の空気感を思い描きながら、サンダルウッド、ミルラ、ベチバー、トンカビーンズ、パチュリをベースに選び、スモーキーで深い余韻のある香りに。

〈アロマレシピ〉

トップノート

スイートオレンジ…6

レモン…6

ローズマリー…2

 

ミドルノート

ローズ(アブソリュート)…2 

ミルラ…1 

 

ベースノート

ベチバー…4

オーストラリアンサンダルウッド…3

トンカビーンズ(アブソリュート)…1

パチュリ…1

『サウンド・オブ・ミュージック』(1965年/アメリカ)

『サウンド・オブ・ミュージック』配信:ディズニープラスのスター (C)2025 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.

美しい自然を背景に、家族の絆と信じ合う心を描いた不朽の名作

修道院から派遣されたマリアが、オーストリアのトラップ一家の家庭教師となり、音楽を通じて7人の子どもたちや厳格な父親と心を通わせていく物語。前半は草原や山を舞台に、マリアと子どもたちが音楽とともに心を開いていく爽やかな展開が印象的です。後半ではナチスの台頭により一家が亡命を決意し、自由を求めてアルプスを越える緊迫した展開へ。冒頭の高原を駆け抜けるマリアの姿や「ドレミの歌」の場面からは、ヨーロッパの草花の香りや森の澄んだ空気が感じられ、ラストの山越えの場面では、強い意志を宿した清廉なイメージと青々としたグリーンの香りが心に深く残ります。

『サウンド・オブ・ミュージック』をイメージしたアロマレシピ

エーデルワイスの画像

困難な時代における希望としての音楽を花々で、そして強い信念を重めのベースノートで表現しました。トラップ一家の可愛らしくも重層的な歌声のハーモニーや、平和への祈りが込められた「エーデルワイス」の清らかな印象を、ベルガモット、ネロリ、ローマンカモミール、ホーリーフ、ゼラニウムなどでイメージ。そこに、オーストリアの雄大なアルプスや湖畔の美しい景色を思わせる、ローズマリーやサイプレスを加えました。さらに物語が持つ政治的背景や、心に抱き続ける信念と愛を、ベチバーやベンゾインで表現。

〈アロマレシピ〉

トップノート

ベルガモット…4

サイプレス…3

ローズマリー…2

ローマンカモミール…2

 

ミドルノート

ネロリ…3

ホーリーフ…2

ゼラニウム…1

 

ベースノート

ベチバー…1

ベンゾイン(レジノイド)…1

「青いパパイヤの香り」(1993年/フランス・ベトナム合作)

『青いパパイヤの香り』販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング (C) 1993 LES PRODUCTION LAZENNEC

無垢な少女の成長を、みずみずしい映像で情緒豊かに描いた作品

1950年代のサイゴンを舞台に、10歳の少女ムイが住み込みで働きながら成長し、やがて愛と自立に目覚めていく姿を描いた物語。植物や虫の描写は繊細で、ハイビスカス、フリージア、アルストロメリアなどの花々がムイの心の移ろいや成長を象徴しています。東南アジア特有の濃厚な緑と湿度、そしてオリエンタルな花々の香りが、画面からにおい立つよう。無垢な少女がやがて成熟した女性へと変わっていくその過程を、静謐かつていねいに描いた、まるで映像による詩のような作品です。

『青いパパイヤの香り』をイメージしたアロマレシピ

濃厚な湿度の中に息づく緑や生命の美しさにオリエンタルな花の香りを漂わせました。ライム、ユズ、グレープフルーツ、プチグレンなどのかんきつ系は、食材のみずみずしいきらめきや濃い緑、雨に濡れた木々を思わせます。カエルや虫、汗の滴などから感じられる、生命に宿る色気や野生の美しさには、クラリセージやジャスミン、イランイランをセレクト。最後に、凛とした大人へと成長した主人公の姿を思い描きながら、サンダルウッドとパチュリで静かに香りを包み込んでいます。

〈アロマレシピ〉

トップノート

プチグレン…3

ユズ…2

ライム…2

イランイラン…1

グレープフルーツ…1

レモングラス…1

 

ミドルノート

クラリセージ…3

ジャスミン(アブソリュート)…2

 

ベースノート

パチュリ…3

オーストラリアンサンダルウッド…2

 

※この記事は取材当時の情報です。

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「sense of AROMA」は、公益社団法人 日本アロマ環境協会(AEAJ)が運営するWEBメディアです。
アロマで暮らしを彩り、健康で豊かな毎日を過ごすためのヒントをお届けします。

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